IndexPage
←Back← 〇章 一章 二章 三章 四章 五章 六章 七章 八章 九章 十章 →Next→

箏の事典 -- 箏の歴史 --

二章『朝鮮半島、中国大陸へと箏の起源を遡る』

朝鮮半島を代表する琴として有名なものは、「玄琴(コムンゴ)」と、「伽耶琴(カヤグム)」があります。
コムンゴは高句麗、長寿王(413〜491年)の時代に中国大陸(晋)から伝えられた7絃琴を改良して、材質から絃の数まで(6絃)独自に作り出されたと言われます。
琴の胴体の上部には梧桐(あおぎり=アオギリ科の落葉高木)が用いられていましたが、楽器用には、岩や石との間に生えた屈強で強靭なものしか使えず、それも樹型が真っ直ぐで地上から約2.4〜2.7m位までの部分しか使えなかったそうです。
また、その後、高麗の忠宣王(1308〜1313年)時代の侍中だった「李混」という人が、海辺の地方に流された時に海辺を漂う木片で琴を作ったところ、その音が絶妙を極める物だったので、それ以来、材料となる木を海水の中に数年程度、漬けておく慣習が生まれたという事です。
梧桐以外の材料としては、琴の底部は栗の木を使い、絃を支える部分には各絃ごとに檜、棕櫚、烏梅、山柚子などの違う材料で作り、絃ごとの音色に工夫を凝らしています。

コムンゴの原型は中国大陸(晋)の7絃琴でしたが、この7絃琴には風俗の乱れを禁じる意味が合ったそうで、「琴」は元来「禁」だったとされます。
この頃の7絃琴の長さは3尺6寸(約1.1m)と定められていましたが、これは陰暦の1年である360日を示していました。
また、7絃の最低音の大絃は「王」を表わし、最高音の小絃は「臣下」、その間の5本は民を治める「5官」を表わしました。
つまり7絃琴の和音は「天下の和合を表すもの」だったのです。
現在の我々から考えると単なる「こじつけ」に見えますが、度重なる戦乱の世が繰り返されていた昔の中国では、楽器にもこのような思いが込められていました。

さて、さらに中国大陸へと箏の歴史を少しだけ遡ります。
少しだけというのは、彼の地は非常に長い歴史と多彩な文化、そしてそれらの文化を巡る動乱等が多かったこともあり、琴にもいろいろなバリエーションがあったようなのです。
中国大陸古代の琴としては、「琴(キン)」と「瑟(シツ)」があったと言われています。
「琴」は、神農氏が5絃の楽器として作り、周代に7絃になったと言われます。
「瑟」は、伏義氏がやはり5絃の楽器として作り、大瑟50絃、中瑟25絃、小瑟は5絃になったと言うことです。
どちらも黄河文化の産物である事はだけは確かなようです。

さて、それらの多様な形に発展した琴の中から、現在の日本の箏の原型となる「箏」という楽器が現れます。
中国大陸の「奏」の時代に造られたので「奏箏」と呼ばれる事もあります。
一般には奏の将軍「豪恬」が造ったと言われていますが、この将軍は生涯のほとんどを国の西側での戦に費やしていた武人なので、「楽器を考案している余裕があったのだろうか」と言う否定的な見方もあります。
また、この説とは別に「箏」の起源については、いくつかの伝説があります。

秦の宮廷に一つの立派な「25絃の瑟」があったのですが、この瑟をある妹姉が取り合いになったので中央より二つに分けて、13絃を姉に、12絃を妹に与えました。
瑟は竹で造っていたので、「竹」冠に「争う」と書いて「箏」と名付けられました。
秦が滅亡した後に姉は中国大陸に留まり妹は朝鮮半島に逃れたので、中国大陸の「箏」は13絃で、朝鮮半島の「伽耶琴」は12絃になったという話があります。
しかし、実際、秦の時代には瑟は25絃ではなかったようで、また中国大陸では古来、雅楽の箏は13絃、俗楽の箏は12絃だったとも言われますので、あくまでも「伝説」なのでしょう。
一部の研究者の解釈では、秦の将軍「豪恬」が作ったと言うより、西方に遠征している時にイラン方面で使われていた13絃の竹製の楽器を戦利品として持ち帰り、瑟に似せた奏法で鳴らしたので、「竹」冠に「爭(戦争という意味)」と書いて「箏」という楽器が出来たとの説もあります。

現在、実際にその時代に生きていた人はいないのですから聞いてみる訳にもいかず、ハッキリとした文献も残ってはいないのですから、どの説が正しいという訳ではありません。

結局の所、「箏」という名前の、絃が13本、長さが6尺前後で、柱という可動式の支柱で絃を支える楽器が、奈良時代の頃に中国大陸、朝鮮半島方面から日本に伝わって来た事だけが確かなようです。

それでは、このあたりで、話を日本に戻しましょう。

前のページへ戻る
次のページへ進む
Last modified Date: 2005/11/08 07:00:00 GMT+09:00:00
Copyright©Akira Kasuya 2003 All Rights Reserved.